もくじ
はじめに|シニア世代の力を職場の力に
なぜ今、アクティブシニアに注目が集まっているのか?
超高齢社会が進むなか、元気で経験豊富な"アクティブシニア"の活躍に注目が集まっています。しかし「年齢を重ねると覚えるのが大変」といった誤解から、適切に活用されないケースも多く見られます。この記事では、記憶の特性から見たアクティブシニアの強みと、福祉現場にも応用できる働きやすい職場づくりのヒントを紹介します。
相談支援専門員のフィールドレポート|“できない”ではなく“違い”として見る
記憶の違いに気づいたとき、組織を見る目が変わった
「年齢のせいにする前に、“記憶の仕組み”を知ろう。」
福祉の仕事に就いて2〜3年目の頃、私には驚きと苛立ちが入り混じった経験がありました。
高齢の先輩支援員の支援の知識量と対応力に圧倒され、「この人は本当に頭がいいんだな」と驚いたのを覚えています。ところがその一方で、パソコン業務はほとんど苦手で、簡単なファイル操作にも苦戦されていました。
その頃の私は、「こんなに頭が良いんだから、パソコンも覚えられるはず」と思い込んでおり、次第に**「なぜ覚えようとしないのか」と苛立ちを感じてしまっていました。**気がつけば、いつの間にかその人のパソコン仕事を毎日のように引き受けるようになっていたのです。
それから数年が経ち、私が管理者として組織を見る立場になったとき、ある本で「流動性記憶と結晶性記憶」という言葉に出会いました。
流動性記憶は新しいことを素早く覚える力、結晶性記憶は経験を通じて積み上げた知識や判断力のこと。
年齢を重ねると前者は衰えても、後者はむしろ強みとして残り続けるという考え方に、当時の違和感のすべてがつながった気がしました。
パソコン作業に時間がかかっても、支援場面での的確な対応や利用者との信頼関係づくりにおいて、その先輩は誰よりも力を発揮していた。それは結晶性記憶のなせる技だったのだと、今ならはっきり言えます。
この気づきは、現在の組織運営にも活かそうとしています。
職員の得意や記憶タイプに合わせた役割分担や支援設計ができれば、年齢やスキルに関係なく、誰もが活躍できるチームがつくれるはずです。若手の流動性記憶と、ベテランの結晶性記憶。この2つが互いを補完し合う組織は、必ず強い現場になる。そう信じて、今も少しずつ調整を進めています。

記憶のタイプとは?|年齢とともに変化する“覚え方”のちがい
流動性記憶と結晶性記憶の違い
記憶にはさまざまな種類がありますが、ここでは特に「流動性記憶」と「結晶性記憶」に注目します。
- 流動性記憶:新しい情報を素早く処理したり、初めてのことに対応したりする力。年齢とともに衰えやすく、若い時期に高い能力を発揮します。
- 結晶性記憶:これまでの経験から得た知識やスキルを蓄積していく記憶。年齢を重ねても衰えにくく、長く維持されるのが特徴です。
この2つを理解することで、アクティブシニアに合った役割の見極めや配置がしやすくなります。

結晶性記憶を活かす|シニアが力を発揮する働き方
経験こそが最大の武器
アクティブシニアは長年の仕事や生活経験によって、豊富な「結晶性記憶」を持っています。たとえば福祉現場では、以下のような活躍が期待できます。
- 決まった手順の業務:排泄介助、送迎、配膳、清掃など、ルーチン化された業務は記憶の安定性と経験がものを言います。
- 人への声かけや関係構築:人生経験を活かし、利用者や他職員との信頼関係を築く場面でも力を発揮。
- 後進育成やOJT:新人や若手職員への指導役として、知識と経験を“言葉”として伝える役割に適しています。
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手続き記憶との関係|“体で覚える”力も強みになる
自然に身についた行動が活きる
もうひとつ注目したいのが「手続き記憶」です。これは、自転車の乗り方や楽器の演奏のように、繰り返しによって体で覚えた行動パターンのことです。シニアは長年の経験から、無意識に効率よく動く「手続き記憶」が強化されていることが多く、特に現場業務においてはこの力が大きな武器になります。
たとえば、日々の入浴介助や服薬確認など「考えるよりも自然と手が動く」ような作業では、ミスを減らしながら安定した支援を実現できます。
シニアが働きやすい職場づくりの工夫
結晶性・手続き記憶を活かすために
シニアの記憶特性を活かすには、以下のような工夫が効果的です。
- 業務のマニュアル化・定型化:手順が決まっていることで安心して働けます。
- ICTツールの操作は最小限に:新しい操作が求められる場面は、他の職員がフォローする体制を。
- 業務に「意味づけ」をする:過去の経験を語れるような場面を意図的に設け、役割意識を高めることができます。
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まとめ|アクティブシニアの力を支援の質向上に
経験を活かし、チーム力を高める鍵に
アクティブシニアは“新しいことが苦手”ではなく、“これまでの経験が強み”という視点に切り替えることが大切です。結晶性記憶と手続き記憶の特性を理解すれば、シニアにとって働きやすい職場づくりが可能になり、支援の質も自然と向上します。経験を活かし、チーム全体を支える存在として、アクティブシニアの活躍をぜひ後押ししましょう。