もくじ
はじめに|なぜ福祉現場に“生産性向上”が求められるのか?
なぜ今、福祉に“効率化”と“生産性”が必要なのか
支援者の仕事に「生産性」という言葉を使うことに違和感を持つ人もいるかもしれません。しかし、今の福祉現場において「限られた人員・時間で、よりよい支援を実現する」という視点は避けて通れません。
慢性的な人手不足、職員の高い離職率、膨大な書類業務──。これらを放置すれば、本来注力すべき「利用者支援の質」はどんどん後回しになります。
そこで注目されるのが、製造業で磨かれた“効率化”の知恵。中でも「トヨタ生産方式」と「5S」は、福祉の現場でも応用可能な視点を多く持っています。この記事では、その考え方と実践、そして割れ窓理論による職場環境との関連性について掘り下げていきます。
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“忙しすぎる福祉職”を救うカイゼン術|ムリ・ムダ・ムラを減らすトヨタ生産方式の考え方とは?
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「福祉に生産性は関係ない」と思っていませんか?ムリ・ムダ・ムラの視点を取り入れて、現場をもっと効率的で支援に集中できる場所へ。
相談支援専門員のフィールドレポート|整理整頓が信頼を生んだ現場の変化

支援者が気づいた「環境が変わると支援も変わる」実感
ある日、相談支援専門員として訪問した多機能型事業所。面談室は明るく清潔で、利用者スペースもよく整備されていました。けれど、スタッフルームに入った途端、様子が一変。机には書類が山積み、個人情報の書類も混在し、引き出しは開けっ放し。共有棚は中身が不明なファイルでいっぱい。
第一印象は、「これでは支援員が信用されないのでは……」というものでした。
その後、管理者と雑談した際、「書類整理が追いつかなくて……」という言葉が出ましたが、実際には“見えない優先順位の後回し”が続いていただけ。私は、頭ごなしに改善を求めるのではなく、支援者としての立場と相手の状況を尊重しながら、アサーティブな伝え方を意識しました。
例えば、「この状態だと個人情報のリスクも気になりますし、第三者からどう見られるかも少し心配です」と、現場の様子に即した事実と自分の感じたことを率直に共有しました。
ただ、支援の信頼性や個人情報管理の重要性について、現場の様子をもとに丁寧に意見交換を行っただけでした。
それがきっかけとなり、現場内で「まずいかもしれない」という声が少しずつ生まれたそうです。誰かの指示ではなく、現場の職員自身が気づき、動き出したことが何よりの成果だと感じました。
半年後、再訪したときには、スタッフルームは見違えるほど整理されており、「支援内容もなんだか前よりスムーズに伝わるようになってきました」と現場の職員が話してくれました。
目に見える環境のカイゼンは、支援の信頼性や、職員の心にも大きく影響するのだと実感した経験です。
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福祉現場に活かすトヨタ式生産方式|生産性を高める基本と実践ポイント
無駄を見つけて減らす「仕組みづくり」
トヨタ生産方式とは、日本を代表する自動車メーカー・トヨタが生み出した生産管理手法です。その中心にあるのは「ムダを徹底的に排除する」こと。具体的には、「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」つくる「ジャスト・イン・タイム」や、「ムリ・ムラ・ムダ」「不良品を次工程に流さない」自働化などの考え方があります。
福祉の現場では、“人”を相手にしているため、「作業効率」と「人間性の尊重」は両立しなければなりません。しかしそのためにも、「ムダな作業」や「探し物」「伝達ミス」などを減らすことは、支援の質を守る手段となります。
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福祉の信頼と効率を生む5S|現場を変える整理整頓の力
5Sとは?
5Sとは、トヨタ生産方式の中でも基礎となる活動で、以下の5つの頭文字から名づけられています。
- 整理(Seiri)…不要なものを捨てる
- 整頓(Seiton)…使いやすく並べる
- 清掃(Seisou)…きれいに掃除する
- 清潔(Seiketsu)…きれいな状態を維持する
- 躾(Shitsuke)…ルールを守る習慣をつける
この5Sは、製造業だけでなく、医療や介護、そして福祉の現場でも導入が進んでいます。なぜなら、「働きやすい環境は、支援の質を高める」からです。

なぜ、福祉現場で5Sが必要なのか?
特に福祉現場では、個人情報を多く扱い、また利用者との信頼関係が支援の要です。机の上が書類で山積み、共有棚に何が入っているかわからない、そんな状況では「支援」以前に「職場としての信用」が損なわれかねません。
整理・整頓ができていない職場は、ミスが増えやすく、情報の管理にも不備が生じがちです。これは、職員間の不信や、業務の属人化、ひいては利用者への支援の質にも悪影響を及ぼします。
小さな乱れが大きな崩れに?福祉職場で活かす割れ窓理論
割れ窓理論とは?
割れ窓理論とは、「割れた窓ガラスを放置すると、他の窓も割られ、いずれ大きな犯罪につながる」という考え方で、ニューヨーク市の治安回復策でも使われました。
これを福祉現場に置き換えると、「ちょっとした乱れ」を放置すると、やがて全体の職場秩序が乱れる、ということになります。ゴミが放置されている、机の上が散らかっている、共有物が壊れているまま──そうした環境は、職員の気の緩みや、責任感の低下にもつながります。
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色彩心理学を活用した効果的な職場環境づくり|福祉現場にも応用できる実践アイデア
2025/8/19
色の力で職場が変わる!福祉現場やオフィスで使える色彩心理学の活用術。青・緑・黄色などの色で安心と集中をプラス。
5Sと割れ窓理論の親和性
5Sによる整理整頓は、まさに「割れ窓」を未然に防ぐ取り組みです。きれいに整った環境は、「ここではちゃんとしよう」「丁寧に働こう」という心理的効果を生みます。逆に、乱れた空間は「まあいいか」という妥協を誘発します。
職場が整っているというだけで、支援者の意識と行動が変わる。この効果は、思っている以上に大きなものです。
離職防止にもつながる環境整備
汚い職場は、支援員の印象も悪くする
利用者スペースはきれいでも、支援員の作業スペースが乱雑な事業所は少なくありません。とくに個人情報を扱う職場において、書類が積まれ、ファイルも分類されていない状況は、重大なリスクです。
こうした職場では、新人職員や見学者にも「支援者がだらしない」「なんとなく雑な印象」と受け取られ、信頼感を損なう原因になります。
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「働き続けたい」と思える職場には理由があります。福祉施設で実際に喜ばれている福利厚生ベスト5を紹介!柔軟な働き方から健康支援まで、すぐに取り入れられるヒントが満載。
整った環境は“働きやすさ”をつくる
逆に、整理整頓された職場は、それだけで「働きやすい」という評価につながります。必要な情報にすぐアクセスできる、どこに何があるか共有されている、掃除の習慣がある──こうした基本があるだけで、ストレスが減り、職場定着率の向上にもつながります。
5Sの徹底は、支援の質を守るだけでなく、「働き続けたくなる職場」をつくるためにも重要な取り組みです。
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辞めない職場は、“職場の外”につながりがある?管理者こそ知っておきたい「弱い紐帯の強み」の活かし方を解説。
おわりに|「きれい」は“質の高い支援”の土台になる
環境整備は“支援の準備”そのものである
支援において大切なのは「人」ですが、その人が支援に集中できる環境が整っていなければ、良い支援は続きません。トヨタ生産方式や5S、割れ窓理論は、決して製造業だけの話ではなく、「現場でいい仕事をするための考え方」として、福祉現場でも十分に活用できます。
まずは一人ひとりの机の上から。身の回りを整えることは、信頼をつくる一歩です。