もくじ
はじめに|“強みを見る”だけでは足りない
支援の延長にあるマネジメントの視点
「その人の強みを活かす支援」が、福祉現場ではすでにスタンダードになりつつあります。しかし、その“先”を見据えた視点として注目したいのが「エンパワメント」です。
エンパワメントとは「力を引き出す」「力を与える」と訳されますが、本質は“信じて、託す”こと。
支援の現場だけでなく、職場のマネジメントにも活用できるこの考え方を、今回は事例を交えてご紹介します。
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適切な環境が「できる力」を引き出す
「できる前提」での関わりが、利用者さんの自己肯定感を引き上げ、自発的な行動へとつながった好事例です。
以前通っていた就労継続支援B型事業所では、周囲のスピードについていけず、自信を失っていた方でした。
しかし、環境を変えて別のB型事業所に通い始めると、表情も働きぶりも一変。
そこでは、丁寧さや正確さを求める作業が提供されており、本人の“着実に物事を進める力”が存分に発揮されていました。
支援員は「本人の良さが活きる作業」を見極め、過剰な指示をせず、信じて見守るスタイルを取っていました。

エンパワメントとは何か
「できない前提」ではなく「できる前提」で関わる
エンパワメントは、もともと社会福祉や心理学で使われてきた言葉で、「人が自分の力に気づき、主体的に行動できるようになるプロセス」を指します。
福祉現場では、利用者の「自己決定」や「参加」を大切にする姿勢としてエンパワメントが語られますが、これは支援者や組織のメンバーに対しても同様に働きます。
「相手に期待する」ことが、力を引き出す第一歩。つまり、エンパワメントは「できると信じて関わる」ことから始まるのです。
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マネジメントで活きる“エンパワメント”の考え方
「指示」より「信頼」が組織を強くする
マネジメントにおいても、エンパワメントは非常に効果的です。
上司が部下を信じて任せる、職員同士が互いの強みを尊重して役割を分担する——こうした関係性が築かれている組織は、個々の力を最大限に発揮できます。
一方で「どうせできないだろう」「任せると失敗しそう」といった前提が根底にあると、人は萎縮し、可能性を発揮できなくなります。
つまり、組織マネジメントにおいても「期待する」ことは大きな意味を持ちます。
教師期待効果|“期待”が人を伸ばすサイクル
ローゼンタール効果と職場のポジティブ循環
「期待が人を育てる」ことを裏付ける研究に、「ローゼンタール効果(教師期待効果)」があります。
アメリカの心理学者ローゼンタールが行った実験では、「この子は将来伸びる」と教師が“思い込んだ”生徒が、実際に学力を伸ばすという結果が得られました。
このように、
- 相手の可能性を信じて関わる
- 小さな成功を積み重ねる
- 自信が芽生える
- さらに行動が変わる
というポジティブな循環が生まれるのが、エンパワメントの魅力です。
職場にこの循環をつくれれば、人材育成も離職防止も自然と促されるでしょう。

信頼されている実感が、職場定着のカギになる
福祉・介護の現場では、人材確保と定着が大きな課題です。離職の理由には、「仕事にやりがいを感じられない」「評価されていないと感じる」「上司との信頼関係が築けない」など、心理的な要因が多く挙げられます。
ここで活きるのが、エンパワメントの考え方です。職員一人ひとりの強みに目を向け、「あなたならできる」「任せたい」と信頼を込めて関わることで、自己効力感が高まり、職場に“居場所”を感じやすくなります。
人は「期待されている」と感じると、自らその期待に応えようとするものです。これが前述のローゼンタール効果(教師期待効果)であり、エンパワメントを軸にした組織づくりが、自然と離職を防ぐ土台にもなります。
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まとめ|“信じる支援”が職場を変える
エンパワメントで生まれる、自律と信頼の文化
エンパワメントは、支援の枠を超えて、チームや組織の在り方そのものを変える可能性を持っています。
「この人はできる」と信じて関わることが、利用者にも職員にも、自信と行動を引き出す最良のアプローチになるのです。
目の前の相手を“できる存在”として見つめ直す。それが、支援の質を高め、職場の風通しを良くする第一歩になるかもしれません。
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